やがて君になる 第1話 わたしは星に届かない
みなさん、こんにちは!!
さっそくですが、「やがて君になる」第1話の考察を場面ごとに記載していきます。
全体を通しての感想は、話の構成や演出などによって登場人物の立ち位置や感情、今後の方向性を見事に表現している素晴らしい話でした。
また、読み手の立場から見ると、「やがて君になる」という作品をどのような観点に注意して読み解けばいいのかがわかる読解のチュートリアルとしての役割も担っていたと思います。
今回は、
侑の心情の変化
全体構成から読み取れる侑と燈子の関係性
本作のキーワード
を中心に記載します。
なお、以下の場面は考察しやすいように分けているだけで、読解における厳密な分け方からは逸脱している点をご容赦ください。
侑の心情の変化
■場面1(ベッドに寝転ぶ侑)
1ページ目では、恋がわからないという侑の悩みが心内語で描写されています。
侑の周囲には、恋愛漫画やCD・小説などが「きらきら」とした星とともに描かれています。 この「星」の描写はタイトルの「わたしは星に届かない」とも関連する本作の重要なポイントです。
■場面2(教室~生徒会室)
教室で、友人(朱里とこよみ)と会話している侑。部活が決まらずに困っていたら、先生から生徒会を紹介され、生徒会室へ向かいます。そこで、告白される燈子を目撃してしまいます。今回は、ここでの侑の心情を少し深く考えてみましょう。
まず、とっさに隠れ「……」という侑の心内語からは、見てはいけないものを見てしまったことへの罪悪感が読み取れます。
しかし直後の侑のしぐさにも注目してみるともっと複雑な心情が読み取れます。
侑は、男の子の横顔をそっと覗いています。告白する男の子の顔は「きらきら」と輝いているように見え、そこで侑は目を逸らし、切ない表情を浮かべます。
この表情からまず思いつくのは、恋をできない自分自身に対するやるせない感情です。ただし、ここでの心情はそれがすべてではありません。
侑の現状の立場をふまえてみましょう。侑は自分自身も中学の同級生に告白されています。そのため、告白している男の子と中学の同級生を重ね合わせ、想いに応えられないことに対する罪に似た感情を持っているともとらえられます。
続きです。燈子に見つかり、生徒会室へと侑は案内されます。「今の内緒にしといてね」と言う燈子と侑の間にはじわりと滲む円が描かれています。本作では、この演出は物語の起点となる重要な場面で頻出します。
侑を生徒会室へ案内し、部屋の前で燈子は手を差し伸べます。迷っている侑と、その侑に(救いの)手を差し伸べる燈子、という第1話の二人の関係性が暗示されています。
■場面3(教室~生徒会室~自室)
舞台は再び教室へと戻ります。朱里とこよみと会話する侑。燈子に対する第一印象はかなり良かったと語り、朱里とこよみは恋話だと誤解します。
一方で、侑は恋について悩んでいます。恋を知らない侑と朱里・こよみの対比が、机の距離や光と影によって絶妙に表現されています。こよみ達との間に、理解できない隔たりがあると、少なくとも侑自身はとらえているようです。
続く生徒会室の場面では、燈子と沙弥香と侑が会話しています。多くの人間に告白されながらも全て断ってきた燈子。理由である「どきどきしたことない」という言葉に反応する侑を遮ったのはある男の子です。意図的ではなくおそらく偶然でしょうが、この男の子は今後の二人の関係を良い意味でかき乱すきっかけになるキャラクターです。
場面は侑の自室に移り、同級生から送られてきたメッセージを見て悩んでいる様子が描かれます。スマホは「きらきら」と輝いていますが、侑があえて自分からスマホを遠く離そうとしている描写が印象的です。
■場面4(教室~生徒会室)
続く教室の場面では、恋に悩む侑が描かれていますが、ここでも光と影の演出が多用されています。侑に声をかけるこよみ。そんなこよみに対して侑は「ごめんね」と心の中で呟くのみであくまでも真意は語りません。二人との間に隔たりがあると感じているからこそ相談できない侑の孤独な気持ちが鮮明に伝わってきます。
侑は燈子になら理解してもらえると思い、生徒会室へ向かいます。そして燈子に悩みを打ち明け、回想シーンへ至ります。
侑の「彼のことは好きです」「でも断ろうと思っている」というセリフからは、本作における「好き」がいわゆる恋愛対象者に向ける「好き」とイコールではないことが読み取れます。回想シーンでは、告白され初めはわくわくしていたが恋ができない自分自身へ徐々に不安を感じているといった侑の心情が描かれます。元同級生の「特別」と直後の侑の「特別って気持ちがわからない」というセリフによって本作の「好き」が「特別」を意味していることが確定します。そして好きが理解できない自分自身に対する不安な気持ちが、徐々に影がかかる足元の描写で美しく表されています。
そんな侑に対して、自分も同じだと暗に示して安心させる燈子は、直後に元同級生から電話がかかってきて焦る侑の手を握ります。
燈子の助言に従い侑は同級生に自分の本音を語り、電話を切ります。直後に燈子の手が少し汗ばんでいることに侑は気づきます。
「特別がわからない」という侑の気持ちを確認し、そのまま引き寄せる燈子。そして自分と侑とは違うということを宣言し、告白めいたセリフを放ち、侑の戸惑いとともに第1話は完結します。
全体構成から読み取れること
■二人の物語
冒頭の二人の出会いの場面で燈子が差し出した手が、侑に握られて、それを引き寄せるという第1話の二人の関係性がラストでようやく結実し、物語全体の方向性を示す形で終わりを迎えました。このラストの部分は、第1話の山場であり、燈子が初めて侑を名前で呼ぶことがポイントです。この部分が、燈子の最初の転換点であるといえます。
第1話の時点ですでに、侑も燈子も悩みを抱えていたのですが、侑の悩みや特異性のみを読者は理解できる構成となっています。
そんな侑の悩みがラストの燈子の助けによって一見解消されたかのように見えて(実は本質的な部分は何も解決されていませんが)、救われているのは実は燈子の方である、という対比が面白い点です。
全体的に本作は読み進めるにつれ、それまでの部分の真意が明かされ、既出の描写が鮮やかに塗り替えられていくのですが、第1話において既にその兆候が表れています。つまり、本作を途中まで読み進めてから第1話を読み直すと、ラストの部分から、本作が侑だけでなく燈子も含めた「二人の物語」であることが理解できる構成となっているのです。
※「二人の物語」というのはアニメ版の監督である加藤誠氏も言及しています。
キーワード
※以下は蛇足となります。
■星と熱
第1話においては今後重要になる二つのキーワードが初出します。「星」と「熱」です。
まず「星」は、タイトルの「わたしは星に届かない」と、P.3などの描写などから、「恋」を示していることが理解できます。この星の演出は ラストの燈子との場面など、しつこいくらいに描写されているため、かなり意図的であることが理解できます。
また、「熱」というキーワードは本話の時点ではまだ真意を理解できません。ただし、P.42の「少し汗ばんでいる」という表現が、2話のタイトルである「発熱」、第12話のタイトルである「種火」、第13話のP.89の体温の描写につながっています。つまり本作では、「熱を帯びる」ということが「恋心」を暗に意味しているともとれるわけです。
■光と影
一方で、光と影という、これも作中を通して重要な演出も見逃せません。本作品においては恋ができるかできないかを光と影で対比されることが多く、実際第1話においても、光と影の描写が執拗に用いられています。
■他
・P.12の燈子のセリフ内の「分かりにくい」とP.34の侑のセリフ内の「特別がわからない」以降の表記ブレは意図的かは、後ほど検証します。
2019/3/10/ 初校UP