lattegoto’s diary

アニメや漫画の考察を書いていきます。

漫画やアニメの考察を、「元国語の教材制作者」としての知見から掲載します。
なお、ネタバレがあるのでご注意ください。
当面は「やがて君になる」の原作の考察を更新します。

やがて君になる 第2話 発熱

 みなさん、こんにちは!!

 

 さっそくですが、「やがて君になる」第2話の考察を場面ごとに記載していきます。

 第1話は、侑の戸惑いとともに終わりを迎えましたが、今回はさらにそれが加速し、侑と燈子の関係性に良い意味で波紋を残した印象を受けました。全体的に登場人物の関係性が変わりつつあることが丁寧に描かれていました。

 

 今回は、

変化と戸惑い

燈子と沙弥香のすれ違い

「発熱」と侑

 を中心に記載します。

 

 なお、以下の場面は考察しやすいように分けているだけで、読解における厳密な分け方からは逸脱している点をご容赦ください。

 

変化と戸惑い

場面1(湯船につかる侑~教室)

 冒頭からお風呂に入る侑が描かれています。第1話の燈子の言葉を思い出し、さっそく侑は戸惑っています。そんな気持ちを、蛇口からお湯の張った洗面器へ「ピチャン」と垂れる水滴による波紋で表現しているのがにくい演出です。侑の心に何かしらの変化が起き始めていると予想できます。

 続いては、生徒会の打ち上げです。ここでは前会長の久瀬先輩が登場します。あまり仕事をしない駄目な一面が描写されていますが、はしゃぐ燈子を見て「燈子のやつなんか浮かれてる?」と述べています。この時点では、他の部員たちは燈子の変化を感じ取っていません。唯一その変化を感じ取っている眼力の鋭さが、生徒会長を続けられた理由なのかもしれません。実際に、直後で侑に推薦責任者を頼む燈子の姿を見た沙弥香は呆気にとられており、つまり燈子の変化に気づいていないことがわかります。

 続く部分では、燈子に推薦責任者を頼まれて、困っている侑の様子が描かれています。ここでは、迷いやすいという侑の性格の一端が表れています。

場面2(バレーの授業)

 さらに次の場面では、燈子と沙弥香がバレーの授業を受けています。この場面までは戸惑う侑の姿が中心でしたが、ここでは戸惑う沙弥香が描かれています。燈子と沙弥香のやり取りからは、二人の関係性が読み取れますが、詳細は後述します。

 結果的に沙弥香は燈子の願いを受け入れつつ、「ずるい」と評します。

 なお、この場面における同級生の「燈子」「佐伯さん」という呼びかたの差異も見逃せません。クラスにおける二人の、級友との距離の取り方を端的に表現できているのが素晴らしい点です。

場面3(侑へのお願い)

 続く部分は沙弥香を介して燈子が侑を説得する場面です。バレーの会話の後で、燈子と沙弥香の間でどのような会話がなされたのかは想像するしかありませんが、沙弥香に「ずるい」と評されるくらいですから、燈子が促したともとらえられます。

 迷った末に侑は「佐伯先輩までそう言うなら」と推薦責任者の任を引き受けます。

 侑も沙弥香もここで表面上は戸惑いが消え、三人の立場が確定します。

 一方で、物語全体を俯瞰すると、燈子と侑の関係が加速するきっかけをつくったのが、沙弥香であるという事実が切ない皮肉にも感じます。

場面4(下校)

 そしてラストの場面です。まずは、おそらく学校に提出された立候補の書類が描写されます。書類に記されている名前の大きさが二人の性格をよく表しています。丁寧に堂々と大きめに書かれている燈子の名前は、まさに見られることを意識している燈子そのものであり、自己を肥大化させている性質が表れているようにも見えます。一方侑の字は、小さいながらかなりおおざっぱです。

 帰り道に第1話のラストの出来事について侑は燈子に問います。当人を前にしてこれをストレートに聞けるのが、まさに侑の強みともいえます。一方で、答えあぐねる燈子は、おそらく自分自身でもこの時点では心情を整理できていないことが読み取れます。冒頭から中盤では侑と沙弥香の戸惑いが描かれていましたが、燈子も戸惑っていたことがここから読み取れます。

 しかし踏切を渡っている最中に侑の発する「……好きになるとかないですけど」という言葉で燈子は自身の心情に気づいてしまい、作中でも非常に印象的な山場にさしかかります。燈子が侑にキスをする場面です。

 電車の通過によって二人きりになる描写が非常に美しく、唇を重ねる場面では、風がさっとふき、物語が走り始める疾走感が演出されています。侑のことが好きであると自覚する燈子。

 最後は視線を外して、侑も燈子も互いに戸惑いつつ物語は着地します。

 

燈子と沙弥香のすれ違い

 ここまでは、各々の戸惑いを中心に物語全体を見てみましたが、ここでは燈子と沙弥香を中心に考察してみましょう。

 ポイントとなるのは、バレーの授業の場面です。この場面からは二人の関係性が変化(すれ違いつつあること)が読み取れます。

 まずは、燈子と沙弥香の述べる「信頼」という言葉に対する重みの違いを考えてみましょう。

 沙弥香の「どうして(小糸さんを推薦責任者に選んだの)?」という問に対して、燈子は「一緒に選挙を戦って今から信頼関係を築いておきたいの」と答えます。それに対して「私よりもあの子との信頼を深めたいわけね」と沙弥香は問い直します。

 この沙弥香の言葉からは、侑に対する嫉妬心を含んだ強い想いが伝わってきます。

 対して燈子は「私たちの間に今更そんなの必要?」と問い返します。この言葉自体は、カウンターのできない優れた問だと言えます。つまり、ここで「必要」と答えれば、二人のこれまでの信頼関係を否定することになり、「いいえ」としか返せないからです。

 燈子は、沙弥香の持つ嫉妬心のような強い想いからではなく、戦略としてこの言葉を使ったといえるでしょう。また、本話のラストの場面を見る限り、この時点で燈子は侑に対しても、強い想いを持っていることを自覚していないことも推察されます。

 つまり、ここでの燈子の用いる「信頼」という言葉は、駆け引きのために使っただけでありあまり強い意味が含まれていないと考えられられるわけです。

  この「信頼」という言葉の重みのズレからも燈子と沙弥香がすれ違い始めていることが読み取れます。

 そして、沙弥香は「……もうずるいんだから」と燈子の意見に折れるわけですが、その表情は満足げに笑っています。

 直前の部分では燈子の「私たちの間に今更そんなの必要?」という言葉を受けて息を飲むような表情が描かれているため、なぜ満足げな笑みを浮かべていたのか疑問が残ります。

 そこで、ここではなぜ沙弥香が燈子の意見に折れたのか、その理由を考えてみましょう。

 まず一つ目は、直前の燈子の「私たちの間に今更そんなの必要?」という言葉に注目です。これを受けて沙弥香は息を飲むような表情をし、折れるわけです。

 燈子の「そんなの(=信頼)」という言葉からは、侑に対する以上の信頼が沙弥香に向けられたとも表面上は読み取れます。つまり、ここでの沙弥香はそんな燈子の気持ちに気づき、喜んでいるとも考えられますが、直後の沙弥香の「……もうずるいんだから」という言葉からこの説は否定されます。燈子の言葉が、戦略的なものであることを沙弥香は理解しているのです。

 では沙弥香の心情はどう読み取ればいいのでしょうか? まず「ずるい」という言葉のニュアンスから考えましょう。

 一般的に「ずるい」とはネガティブな意味を持ちますが、息を飲むような表情と直後の笑顔から沙弥香はむしろポジティブにとらえていることがわかります。そして「ずるい」には、ネガティブなニュアンスがありながらも「かしこい」というポジティブな意味も含まれます。

 では「ずるい」の対象はなんでしょうか? ここでは当然ながら直前の燈子の戦略に対してです。その戦略を目の当たりにして、沙弥香は息を飲み、「ずるい」と笑みを浮かべるのです。

 ここから察するに、沙弥香は燈子の聡明さに惹かれて折れたのが本当の理由であると考えるのが妥当でしょう。つまり沙弥香は思わず「ずるい」と表現した燈子のかしこさも含めて好きなのでしょう。だからこそ、直後で満足げな笑みを浮かべたのだと考えられます。

 と、同時にこの時点での沙弥香は、簡単に折れたことからも、侑に対する燈子の想いの強さにも気づいていません。

  ここからも燈子と沙弥香のすれ違いが読み取れます。

 

「発熱」と侑

 第1話でも言及しましたが、本作における「発熱」は「恋」を意味していると考えられます。そんな第1話を受け、第2話でも「発熱」が意味深に描かれています。ここでは、発熱しているのは誰なのかも読み取っていきましょう。

 まずは冒頭の湯船につかりながら燈子のことを思い浮かべる侑に注目します。

 ここでの侑は頬を染めています。発熱が恋心を表しているため、ここでの侑はお風呂によって人工的に発熱し、恋の擬似体験をしていると考えられます。ただし、あくまでも擬似体験であり、侑に自覚はないでしょう。(燈子が発熱しているか否か、あるいは自覚があるか否かは、この後の話で考察するので、ここでは保留とします。)

 少なくとも侑が発熱しているのは、さまざまな描写から読み取れます。それは侑の視線(意識)です。

 まず扉画では、通り過ぎる侑と燈子が描かれています。触れそうで触れない二つの手が、二人の未来像を映し出しているようで興味深いのですが、侑だけが燈子を見つめる構図に注目しましょう。なお、第2話からは侑が燈子を見つめる描写が増えていくのもポイントです。

 また、お風呂の場面や推薦責任者を引き受けるのを迷う場面でも、侑は燈子の顔を思い浮かべ、かなり意識していることが読み取れます。

 一般的に人は好悪どちらかの感情であれ、何かしら気になる相手のことを意識するものです。その点をふまえると、本来は関心がないはずの侑が、この時点で既に燈子を意識していることが読み取れます。もちろんその感情はまだ、「恋」と呼べるものにまで至ってはいないでしょうが、少なくとも「恋」をする土壌は形成されつつあるといえそうです。侑は燈子を「特別」とはいえないまでも「気になる相手」と認識しはじめています。

 第2話では、そんな燈子を意識する侑が自分自身に戸惑いつつも一旦は迷いから抜け出ますが、最後の唐突なキスによって、再び迷いの中に放りこまれて話が終わります。

 

 

2019/3/13/ 初校UP